春なのでまっさらに。

ドイツはハンブルグとベルリンに弾丸旅行に行ってきました。

同じスタジオで勉強していた友達が卒業して、初めての作品がハンブルグで上演されたからです。ベースとなったのは彼の卒業制作で、それはそれは本当に素晴らしい作品でした。今回劇場で正式上演となったものは、彼の作品からインスパイアされたもので、実態は別のものでした。というのも、今回彼を誘った企画者がすでに初演を終えたものに加筆されたコーポレートピースであってショートタームで制作されたから。それも、それなりに違うテイストで面白かったです。批評も抜群だったので第二弾があるかもしれません。とても素敵な夜でした。

 

久しぶり、とは言っても1ヶ月ぶりに会った私たちの話したいことは留まることを知らず。ハンブルグの街をブラブラしながらだぁ〜っと様々なことを話しました。ハンブルグは美しい街です。日差しも春、散歩日和でした。

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彼は今の教授のファーストジェネレーション。そしてドイツ語が喋れないのに合格をもらった唯一の先輩です。彼から時が経つこと5年、わたしがそんな無謀な二人目。出身国こそ違えど、彼は母国でペインティングの学位を取得していて30代、これがセカンドスタディーと共通点の多い私たち。彼は私の日々の言えない悩みを、そっと救い出してくれる親友ですが、何より「これが美しい」という琴線が近しいというのが急速に仲を深めた一番の理由です。

 

 

芸大生といっても、当たり前ですが美学というのは人それぞれです。むしろキャラクターもテイストも全くバラバラなのが私たちの教授の好むところです。例え同じテーマで制作したからといって同じものが生まれることはありません。そういう違う中であって、でもテイストを感じ合える関係というのがあります。私と彼はそういう関係です。だからお互いが五感で感じたものを、シェアして、議論して、笑って、時には一緒に悲しむ。そういう親友。

もう一つには、前述したように境遇に重なるところが多いこと。それは過去のあれこれ以上に、スタジオでの立ち位置や教授との関係性が主たるのですが。私ももう4セメスター目ですので、珍しいアジア人ではなくひとりのキャラクターとしての定位置が出来始めています。それが彼と重なるのです。簡単に言えば、私も彼も教授陣のお気に入り。自惚れのようで、でも今やクラス中が私にこう言います。

「教授はあなたのことが好きだもの」ってね。

 

最初は生活にすら苦労する私だから教授は優しいだけのようだった。でも実はそういうことじゃなかったんだ、と小さなチクチクしたものが芽生えています。彼女が私を公式に評価する機会が多いほど、なんだか曖昧に笑うしかありません。教授は私に「あなたから影響を受ける」と言ってくれますが、彼もまた同じことを言われてきました。私以上に彼の場合は受けた嫉妬は大きかったし、結果として卒業して1ヶ月でもう州立の劇場で作品が上演されたわけですから、今だってそうです。私が彼とのハンブルグでの出来事について話した時に、素直に彼のチャンスを素敵だね〜っという人はあまりいませんでした。これには今更ながら、少し驚きました。卒業した今でもやっぱりチクチクとしたものが見え隠れ。私の知らない彼の4年間が偲ばれますが、人間だもの、そういうものなのかもしれません。

 

私が感じるのは、言語としても文化としても遠いところにいる私たちは、ある種無礼な存在です。ネイティヴが繊細に気を払うような言い回しも出来ないし、ことば巧みに何かを見せることも叶いません。だから必死に作品それ自体で全てを説明仕切るしかないし、ただ大事なことだけを会話するので精一杯です。そういう無骨さが、今やスターとなり、周りに気を使われる存在の教授には気楽なのかもしれません。私には彼女が、出来る限りの誠意を持って全ての自分の生徒に対して隔たりなく接しているように見えます。簡単なことではありません。むしろ教授がそこまで気を配る必要もあるかと言われれば、ないかもしれません。

スタジオという狭い世界で、比較することに意味はありません。

ですが嫉妬というのは時に、人間らしくその人自身を浮かび上がらせます。アグラウロスの嫉妬のように、恐ろしくも美しさを見せることすらある。

ケクロプスの娘の部屋にはいって、女神の命令を実行する。さび色の手でアグラウロスの胸に触り、心臓いっぱいにとげとげの茨を植え付ける。有害な病を吹き込み、骨という骨と、肺の真ん中に、真黒な毒を振りまいて、散らばせる。

-Metamorphoses

 

でも結局、心どおりに黒く染まっては、ものを言うにも声はでない。

 

彼と私は、そんな感情を持てるほどの余裕がないだけで、ゴシップを全て聞き取ることのない語学力と、なんならドイツ語回線を遮断するという選択肢を持ち得ているので、まぁのんきに笑っていられるし、のんきに笑っとくしかないわけです。むしろ私たちからすれば、EU市民で何の制約もなく自由に生活できる彼らに私たちが嫉妬したいくらいです。こっちは心配事で頭がいっぱいなんだよってね。笑

 

とはいえ、ギリギリ1年でも彼と同じ時期に勉強できたことに感謝しています。仮に一人でこの状況に置かれていたら、しょーもないことで悩んで、私こそ全てを誇張して、身を焼かれていたかもしれません。実際は教授の心理など計り知れないし、誰がお気に入りとか、そんなものは、そんなものなのです。ただ受ける優しさを大事にして、誰かとの間を測量することなく、小さく前を見つめていたいものです。

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春の日差しは長くて静かですね。

2月最後の一人旅、久しぶりのまっさらな景色でした。