今年もViennaleで映画マラソン、合計12本。

11月のスタートは、もはや恒例行事のフィルムフェスティバル”Viennale”です。今年も例に漏れず、5日間で12本。毎日映画館をはしごして、夜になって、寝て、また映画館。そして今年も昨年同様に授業の一環として教授と一緒に見ては話すを繰り返す。情報過多で、中々でした。笑 ただ去年より当たりを多く引いたので、映画中にうとうとすることはありませんでした。

ちなみに去年の記事はこちら。

kiikiii.hatenablog.com

 今年はインテンダントが新しくなり、去年よりも渋めのラインナップでした。個人的には今年の方が見たいものが多かったのですが、ガラガラの映画館もあったのでイベントとしてはどうだったのか…ちょっと心配でもあります。例のごとく2019年の新作なので、勝手に私が見て面白かったものだけオススメしてみたいと思います!

 率直、簡潔に12本中、とても良かった2本。

 

地久天長 So Long, My Son

中国映画。今年のベルリン国際映画祭でも主演女優賞、男優賞をダブル受賞した作品。中国の歴史を背景にある家族を丁寧に描いた作品。こういう歴史超大作をある日常に置き換えて静かに描く、みたいな手法はアジア映画にありがちと言うか、日本の大河を彷彿とさせると思いますが、ところがとにかくプロットが素晴らしいです。現在と過去と過去と呼べないほどの前後感が交差する様子は、誰かと思い出を話している感覚に近いものがあり、そもそも「翻弄される」状況だと、そうやって世界が前後してぐるぐると自分を置き去りにして回っているのかもしれない、そんな気持ちになりながら3時間見届けました。このお父さんが、なんというか、まるで自分の父親に見えるというか。こういう不器用さの選び方がひたむきな母親と並んでいる姿が胸にくるものがありました。前時代的な部分を嫌味なく描けているのは、主演の二人の素晴らしい演技の賜物かもしれません。オススメの一つ。

 

 Ich war zuhause, aber

新ベルリン派のAngela Schanelecの2019年の新作です。

Angela Schanelecの作品をこの新作を皮切りに今年は多く観たのですが、最初の印象はシンプルに「難しいな」でした。モノトーンな全体の構成と独特のカメラワークと時間の取り方に目が離せなかったものの「いいとか悪いとかじゃなくて、難しい」だったのですが、翌日から怒涛のAngela Schanelec祭りのごとく過去の作品を見ていくうちに、不思議とこの新作を思い返してはもう一度見たい衝動にかられました。過去の作品を含めて、この新作と、2007年のNachmittagがお気に入りです。

 

長回しで、カメラが追いかけるようには切り替わらず、戻らない。時間そのものを映画にしている感のある、ドキュメンタリーと映画の交差点のような印象を受けるのは、彼女自身が役者であることも関係しているような気がしてならなくて。演じるその身体的感覚があるから、時に抗えない役としての欲求と間みたいなものが常に漂っていて、それが感覚的に映るのかもしれない。とか思ったり。

 

”Viennale”では映画上映後に必ず監督か出演者との質疑応答の時間が設けられています。もちろん彼女も毎回マイクを持たされて、批評家の的外れな質問を受けたわけですが(どうしてか首を捻りたくなるほどに頭カチコチであ〜制作するってことを体感したことがないんだなぁと言う人ばかりが対談相手として前に出てくる。は、アーティストトークのあるあるだと思う。余談です。笑)それを聞いていて、彼女が評価されている「感覚的な、でも考えずにはいられない」は無意識的に行っている部分が大きいのだなぁと言う印象を受けました。同時に、非常に共感したことが「あれやこれやと裏をかかずに、ただ目の前のこの映画をそのまま見て受け止めてほしい。裏なんかない」と言う言葉。もちろん、思いついて、すぐ撮って、ってわけじゃないのでコンセプトやプロセスと呼ばれるものが存在するし時間の経過も含めてそれが映画としてパッキングされているわけです。簡単にいえば、だから奥が深いわけで、味わいの深いものは隠し味を当てたくなるものなのでしょう。でも隠し味についてごちゃごちゃ議論するよりも、それを経て美味しくなったメインについて味わえよって話です。もっともだ。

 

 

 

12本を一気見は、もはや身を削るくらい結構ハードなのですが、毎年つい取ってしまうこの講義。メジャーリーグ以外の、いい作品や監督についてのボキャブラリーが劇的に増えるのが最大のメリットです。たとえ、なんだこのクソみたいな映画はっていう作品に当たる確率が3割くらいあっても。えへ。今年もありましたとも。

 

それも含めて、クタクタで飲むビールと終わりのない議論で消化しきれなかったことをここに書いたり思い出したり。お値段以上に楽しめる”Viennale”。そんなフィルムマラソンの思い出話でした。