5676.821マイル。

かれこれ4年ぶりに、日本に住む彼女と長電話をした。

学生時代からの友達、新しいスポットや美味しい食べ物を訪ねてよく二人で出かけて、ダラダラとおしゃべりをする仲の良い人。お互い同じ業界に居たので、非常識な時間の連絡もフットワーク軽く会えたのも、関係が長続きした理由の一つだと思う。もちろん、彼女のとことん優しい人柄が一番大きい。20代、朝まで一緒に遊び歩いた。

 

とにかく、「会う」友達だったので、lineの長いやり取りやお手紙という間柄ではなく、一時帰国したら飲みに行こう!と言い続けて、気が付けば4年が経っていた。

 

今年も帰れなさそうだという事実をそろそろ受け入れたのだろう、わたしが。

ふと、4年も会えていない。元気なのはお誕生日の連絡で感じていたものの、おしゃべりしたくなった。ただ、超絶多忙な彼女とおしゃべりは中々難しいかもしれない。

何の気なしに、それでもlineしてみたら、「まじタイミングいいわ!3か月ぶりに今日は早く帰宅できそうだから電話するわ!」と。ほんとまじタイミングよかった。

 

4年間のことを語り合ったわけでも、昔話をしたわけでもない。

いつもの、六本木の居酒屋で、原宿のタイ料理屋で、代々木上原のバーで、ダラダラとおしゃべりしていたころと一緒だった。

相変わらず仕事は忙しいが、将来のために少しシフトチェンジを考えている様子で、地に足の着いた同世代の友達の話は、なんだか私をホッとさせた。

 

私が冗談まじりに、もう学生なんてしてる歳じゃないのにさぁと言うと、

何言ってるん、全然いいやん。日本以外に選択肢があるのはいいことや、と。それと同時に将来帰国することを考えると、そろそろねぇという気持ちにも共感してくれた。

 

コロナ禍で何度か仕事を辞めようか考えたと言っていた。今でもエンタメ業界は大打撃で、予算も中々厳しい。それでも、考えを柔軟に、なんとかしようと。とりあえずゼクシィの婚活の話を聞いてきたという話題で盛り上がった。

 

彼女を通して見える東京は、今日も混沌としているが、あの頃とあまり変わってはいなそうだった。晴れても曇っていて、音に溢れたブラックボックスだ。夕方、カフェで領収書の整理をする私の隣で、キャバクラの引き抜きの話を聞き、夜のサイゼで不倫の三者協議を聞き、日曜日の昼下がりの喫茶店でマルチ商法の勧誘が聞こえてくる。深夜2時の帰り道にいつも会っていた野良猫の後ろ姿を眺めながら坂道を上り帰宅する毎日。今日は帰れないなと事務所で作業をしていれば、同じように帰れない人がまた一人、二人と現場から帰ってくる。腹ごしらえに朝4時の明るくなり始めた空の下でラーメン屋に滑り込む。めったに行かないクラブも誰かの誕生日に引っ張り出されるけど、結局テキーラショットを隣の人に押し付けて、さっさと車で寝て朝を待つ。早朝6時の山手通りをフラフラとしたスピードでかっ飛ばす。気が付けばエンタメの仕事をしていてもテレビを見る時間はなく、有名人には疎くなるし、資料で見なければいけないドラマは2倍速。ワンシーズンに何度も同じプレスルームで同じ商品を眺める。ネオンビルと群青色のグラデーションという難解なパズルのような毎日だった。

 

二人でまた、西麻布のあの店で美味しいもの食べようという話で電話を切った。

 

彼女は戦友だったのだ。いや、私が彼女の戦友だったのかもしれない、彼女は今もそこにいるのだから。埋まらないピースを貸し借りすることは出来ないけれど、同じように空いてしまった穴を眺めて慰めあってきた。

 

私たちは。もう埋らないと泣いたりしない。

見つからないピースがあることを知っている、そしてそれでも、それも、いい。

私たちは大人になったんだ。きっと。