マイスタークラス制の教授を選ぶよ。芸大の教授選に参加した話。

2月になりました。ウィーンは例年通り、どんよりしています。ちょっとした晴れ間でも「めちゃくちゃ晴れている!」と錯覚するぐらいには太陽に飢える冬。

 

そんな冬の真っ只中、我がスタジオは来年のアカデミックイヤーから迎える教授の選考会的なものが3日間行われていました。なんだか興味深い経験だったのでシェアしようと思います。

 

まず大前提として、私の在籍している大学は教員課程と美術史の専攻を覗いて基本的にマイスタークラス制が取られています。簡単に説明しますと、一人の教授(アーティスト)が入学試験から卒業までを受け持ち、卒業時にはその教授の名前が形容詞的について卒業となります。受験者の大半はそのアーティストが教授のスタジオだから、といった理由で試験に出向く程度には、この芸術教育におけるマイスタークラス制は伝統的で認知されているものです。芸大にいるといえば二言目に聞かれるのは「教授は誰?」です、はい。

 

日本の方がイメージしやすいのは入学試験から担任の先生がわかっていて、その先生が合格を出し、その先生の元でメインの授業をとり、その先生が卒業試験を採点し、その先生の名前が添えられた卒業証書をもらうわけです。

 

もちろん必須科目はごまんとあるので、いろいろな先生や教授から教えを請うわけですが、それでも真ん中にはいつも同じアーティストが鎮座しているわけです。超重要人物です。この人の専門分野やこの人が卒業している学位が大きく影響してスタジオの名前がガラリと変わるなんて事態もありえます。名前だけで、セメスター中に一回しか授業しないアーティストに当たっちゃう可能性もゴロゴロあります。名前だけかよ、困るよってなわけで、オオゴトなのです。

*ごく稀に同じポジションに複数のアーティストが名を連ねているスタジオを置いている大学もあります。

 

そんな教授選なのですが、国立大学ですので、基本的には公に開かれています。元教授が更新にサインしなかったため、2020年の年明けから公募していました。

 

最終的には大学院長が決定権を持っているのですが、そこに到達するまでにいくつかステップがあります。

 

step1:該当のスタジオから学生の代表者として2名、その代理として2名、合計4名の学生が書類選考から大学のコミッションに参加できる。

⇨というわけで2020年の年明けにはクラスから男女2名ずつ、かつ年齢(在籍年数)と国籍をバラしたバランスで代表者をみんなで決めました。何かの代表者を決めるときはまずはジェンダーのバランス、は鉄則。

 

step2:代表者と代理者(代理は代表の2名が何かしらのやむおえない理由で会議や投票に参加できない場合に代わりを担う人です)がコミッションの教授や先生方と学長と一次書類選考と2次の面接を行います。

 

step3:8名まで絞られた候補者が公示されます。

*私たちは行いませんでしたがこの時点で異議があれば、スタジオ在籍の学生達がオフィシャルに他のアーティストに招待状を出し、さらなる立候補者を追加することも可能です。ちなみに私の現教授はその形で学生達から招待されて教授選を経て現職に就いたとのことでした。権威に興味ない人がなんで教授職なんて…と不思議でしたが納得。

 

step4:各候補者が完全に公開(大学外からも見られます)で30分のプレゼンテーションと15分の質疑応答を行います。

*コロナ禍のためオンライン開催

 

step5:各候補者による45分のリハーサル授業が、該当のスタジオの学生のみを対象に行われます。こちらは専攻の他の教授や先生すら見ることができません。完全に学生のみ。

*コロナ禍とはいえオンライン開催は無理なので、2日間それぞれクラスから4名(こちらも在籍年数とジェンダーのバランスをとり)が実際にアトリエへ行き、オンラインから候補者の話を聞き、課題を行う。それを他の学生はオンラインで見ながら質問ができる。というハイバードバージョン。実際にアトリエにいる学生は事前にコロナのテストを受けています。

 

step6:連日それぞれのスケージュルが終わり、19時からクラスミーティング、の繰り返し。候補者について話し合います。

 

step7:4日目にクラスの代表としてコミッションに参加できる(投票権のある学生)を交えて、各候補者についての学生からの意見をすり合わせます。主にどういった点で教授として希望するか、しないのかを明確に文章で書き起こしていきます。課題の質やフィードバックの内容、アーティストとしての方向性が自分たちの専門分野と合致するか、もしくはしない場合でもどのような可能性がありえるのか。

 

もう、毎日12時間オンラインで話を聞きながらメモをとり、みんな疲労困憊。

 

おそらく2月には大学からオファーが届き、その後いろいろと契約事項をクリアしたら、早ければ3月中旬ぐらいには、時期教授の名前がアナウンスされると思います。

 

我々のスタジオは超ニッチなので、他のファインアートのスタジオのように、教授との相性が悪いから、他のスタジオに転移しますができません。先に書いたように、マイスタークラス制におけるメイン教授は超重要。ちなみにオーストリアは超学歴社会です。イミワカンナイのですが、クレジットカードとかにも、頭にプロフェッサーとかついちゃうし、私も無事卒業したら、タイトルがついて回ります。もう一回言うと、イミワカンナイのですが、耳聞きする限り学歴社会らしいです。もちろんオーストリア人限定職ではないので、いろんな国籍の人がいましたが、とはいえそんな場所で教授職というのは名誉あることなんでしょうから、候補者のアーティストは「この人いつもこんなに親切なんだろうか。噂と違うな。」みたいな人もゴロゴロいました。笑。

中には過去にパワ・モラハラ的なスキャンダルがドイツの新聞(タブロイド紙ではなく信頼の置ける新聞社)に掲載されたことのあるアーティストが一人いたことが学生の中で問題視されました。あくまでも教育の場なので、その人物についてのバックグラウンドチェックも公式に大学へ依頼しました。ちなみにここ3年ぐらい賞は総なめにしているイケイケのアーティストでして、名前に目がくらんだんだろうか、学長…と遠い目に皆でなりました。ゲストプロフェッサーならまだしも、メインはどうだろうか…。

 

正直、私はどちらにせよ今の教授のもとで卒業制作をするつもりで話は進んでいるので関係あるかと言われれば、半々くらいです(こんなご時世ですので、なんらかの理由で時期がヅレたら、新しい主任教授も私の卒業制作のコミッションで名を連ねます)

 

なおかつ、この8名の中に、学びたいと思える人は私個人からするといませんでした。

大半は親切そうでしたが、私は”いい先生”より引っ張り上げてくれる刺激的なアーティストのもとで学びたい。たまたまかつ、人間的にも素敵な現在の教授が、まぁベストです。この4年間で関係も良好です。ちなみに今在籍している1年目2年目の学生は顕著に”いい先生”を求めていて、私の希望とも合わない。もうハッキリしている。

 

そんなわけで、ちょっと蚊帳の外感ありながらも、こういう投票事は絶対に参加しなければならない使命感のあるドイツ語圏(私だけだろうか)。最後まで話し合いには参加しました。

 

でも途中で燃料切れになって、こっそり飲酒してたのは大目にみてください。あっちょっとです…グラスいっぱいぐらいを20時ぐらいに…ちょろーっと。だって朝9時から21時までずーっとドイツ語で議論って、アルコールも欲しくなる。なりますよね。しかも繊細な議論でみんなここぞとばかりに言葉も選ぶから、私のできの悪い脳みそはフル回転でオーバーヒート…。あっ愚痴が…。

 

そんなこんな、な。1月のハイライトでした。